「本屋を守れ」衝動買い
こんにちは、MASAKIです。
少し前、池袋の三省堂書店で平積みにされていた『本屋を守れ』。
タイトルに惹かれ、衝動買いしてしまいました。
著者はお茶の水女子大学の名誉教授で、数学者の藤原正彦氏。
以前執筆された『国家の品格』がベストセラーとなった方のようです。
個人的に面白かった点、疑問に思った点を早速紹介していきたいと思います。
「論理的思考力」は「数学」ではなく、「国語」で育つ。さらにいうと「読書」で育つ。
読んでみてまず面白いと思ったところは「論理的思考」を育てるためには「数学」ではなく、「国語」が重要であるという主張です。
一般的に算数や数学は論理的思考力を養うためにあるといわれることも多いです。
しかし、藤原氏は論理的思考力を養うには「国語しかない」といいます
この言葉の意味を少し紐解いていきたいと思います。
自分自身の経験を振り返ってみても、算数や数学を学習することで、論理的思考力は磨かれてきたような気がします。
しかし、この藤原氏の主張は少し違います。
この書籍の中には、あるアメリカと日本の大学生の話が出てきます。
藤原氏がかつてアメリカにいた時、向こうの学生の中には「通分」ができないレベルの大学生が結構いたそうです。
一方、そんなレベルなら小学生で習得し終えている日本の留学生。
彼ら・彼女らを議論させたとき、どうなるか。
なんと、大抵は、日本の留学生がアメリカの大学生にコテンパンにされてしまうのだそうです。
もちろん「英語」というハンディがあるせよ…
藤原氏は根本の原因は「国語力」にあると指摘しています。
これは、どういうことかというと「数学の論理と現実社会での論理は違」うということのようです。
「数学の世界には、黒か白かしかなく、現実社会はすべてが灰色」なのです。
「現実社会を動かす論理的思考力とは、数学的なものではなくて、言語技術や表現技術の問題」ということです。
つまり、上述の「論理的思考力を養うには『国語』しかない」という言葉を補足すると
「(現実社会で役に立つ)論理的思考力を養うには、『国語』しかない」ということでしょう。
といった具合に、この本ではいわゆる一般論とは違う確度から議論が展開されていて、
結構知的好奇心が刺激されるのです。
この本の副題は「読書」と「国力」。
さらに、「読書すること」の効用が「国家」との関係で綴られています。
基本的には、歴史の勉強も兼ねながら、スイスイ読むことができ、とても面白く読むことができます。
こうして「読書」の重要性を説くことによって、「本を読むこと」や「本屋を守ること」の重要性というこの本の主たる主張へと論をつないでいきます。
書店を守るための藤原正彦氏の提言
いわずもがな、今、書籍を取り巻く業界は「出版不況」とも言われるとおり、
右肩下がりとなっています。
1997年頃をピークに市場規模は下がり続け、書店数も半減と壊滅的な状況に向かいつつあります。
藤原氏はこうした状況に鑑み、書店を、殊に「街の書店を守る」ためにいくつかの提言をしています。
藤原氏の基本的な主張は「規制」によって、「書店を守ろう」というものです。
具体的には、①「小中高生のスマホ規制」
②「インターネットの書籍流通への規制」
です。
①「小中高生のスマホ規制」
国語力の重要性を説く藤原氏は、「子どもの読書時間の減少」と「スマホ使用時間の増加」の統計調査を紐付けて、スマホこそが子どもが読書をしなくなった理由と結論づけています。
「スマホの最大の罪は(中略)「読書の時間を奪っていること」に尽きます」
とあります。
そのため、スマホ使用時間を制限することで読書時間を確保すべきと主張します。
②「インターネットの書籍流通への規制」
街の本屋を守るべきとする藤原氏は、「ネット書店での購入価格は定価プラス消費税プラス送料実費とする」規制を行い、書店を保護すべきと主張しています。
その論拠として、フランスの事例を取り上げています。
曰く、「フランスでは、二〇一四年小さな書店を守るため、ネット書籍販売で値引きした本の無料配送を禁じる法律を議会で可決しています。」
日本もフランスをモデルに規制せよということです。
「ネットによる寡占を許すと、必ず寡占してからの大幅値上げが始まります。」
とも述べています。
藤原正彦氏の疑問に対する疑問・反論
①「小中高生のスマホ規制」についての疑問と反論
まず、前提として、子どもの読書時間が増えた方がいいという根本的な主張について
私は賛成です。
しかし、その上で議論したいことがあります。
それは、「スマホの使用時間を強制的に減らしたとして、果たして子どもは本当に読書をするようになるのか」という問いです。
「子どもの読書時間の減少」と「スマホ使用時間の増加」は一見、相関関係がありそうですし、藤原氏の主張ももっともな気がします。
しかし、本当にそうでしょうか。
今の時代、スマホ以外にもこどもたちの可処分時間を奪うものはたくさんあります。
それにスマホやインターネット出現以前にも、本を読む子も読まない子もいたでしょう。
それなのに、「スマホの使用時間を規制することによって、子どもたちが読書に励むようになる」という論はいささか短絡的過ぎやしないかと思うのです。
(数学者でもあり、大学の名誉教授で教養のある方に対してこのようなことをいうのはおこがましいとは思うのですが…)
このようなことをいうと藤原氏としては、だからこそ「教育が必要なのだ」というかもしれません。
さらには「本が好きになってしまえば、国語なんて必要ない」ともおっしゃっているので、自発的に本を読む子どもを育てればいいのだと主張されるかもしれません。
しかし、そうであるならばなおさら、「スマホを制限することによって本を読む子ども」ではなく、「スマホという選択肢もあるのに、本を読む子ども」を育てることを目指すべきなのではないかと思います。
さらに理想論をいうと「スマホVS読書」という対立構造を超えて、「スマホ×読書」として捉え、2つを相乗効果で活用できるような頼もしい子どもを育てようとするべきなのではという気もします。
私自身、家庭の方針で、中学卒業までは携帯電話(当時はガラケー)を持たせてもらえませんでしたが、そもそもスマホの使用うんぬんは国が介入して決めることではなく、各家庭の教育方針で決めるべきものだという気がします。
②「インターネットの書籍流通への規制」
藤原氏のいう「ネットでの書籍流通への規制」という提案についても疑問を呈さざるを得ません。
というのも、藤原氏が論拠としてあげている「フランスの法規制」の例は、いわゆる「アンチ・Amazon法」」ともいわれているものですが、この効果というものがいまいち理解できないからです。
フランスではもともと書籍の価格の「95%~100%」で販売することができるのだそうですが、アマゾンが進出してからは、「95%販売+送料無料」などを行ったため、リアル書店がダメージを受けたとのことです。
こうした状況を考慮し、ネット書店の値引きと送料無料を同時に行うことを禁止することによって街の書店を保護しようすることを狙いとして制定されたのがいわゆる「アンチ・Amazon法」のようです。
しかし、こうした法律に対して、Amazon側は送料を「1ユーロ」に
設定したというネットの記事もありました。
そうすると値引きと送料無料の同時実施は禁止とした規制も残念ながら、
ほぼ意味をなさなくなります。
また、これは「ネット書店VSリアル書店」という文脈ですが、ここに規制などを入れるという議論をしていると出版業界内で共食いをしているような印象をうけます。
「規制」というのはある意味簡単な方法ではありますが、必ず抜け道がありますし、資本主義では「保護」を与えると必然的に「競争力」が落ちます。
ただでさえ、旧時代的な日本の出版業界なのですから、今、規制で業界を保護をすると、ますます時代に追いつけなくなってしまいます。
大切なのは、変化する時代に適合する新しい「出版業界や書店のあり方なのでは?」
と思います。
偉い方にはぜひ対症療法的な対策ではなく、出版業界全体をV字回復させるためにはどうするのか、根本的な問題に対する対応策を提示していただき、面白い議論を
展開してほしいと思います。
最後に
以上、藤原氏の論を起点として、疑問や反論を呈してみたのですが、
もちろんこの書籍をディスりたいわけでは決してありません。
読書好きの自分にとって、(紙の)書籍や本屋は存続してもらわなくては困りますので、藤原氏の主張に対しては「総論賛成各論反対」という立場です。
ただ、反対するだけでは、生産性のない与野党の議論とあまり変わらないので、
今後、自分なりにもどうしたら出版業界が盛り上がるのか、一読書好きとして考えていかなくてはいけないと思っています。
そういう意味でも、そういったきっかけを与えてくれたこの本には感謝したいですし、
「知的好奇心」を刺激され、「読書欲」がかき立てられるとても面白い本ですので
ぜひ多くの人に読んでいただきたいと思います。
(フランスのネット書店規制については下記2つのサイトを参考にしました。)
・https://www.clarenet.co.jp/column/creative/archives/497
・https://www.afpbb.com/articles/-/3020276